大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 平成元年(モ)5672号 判決

債権者(被申立人) ザウォルトディズニーカンパニー

右代表者副社長 ピーターエフノーラン

右訴訟代理人弁護士 松尾和子

同 佐藤哲郎 債務者(申立人) 西日本ディズニー株式会社

右代表者代表取締役 藤井鋭三郎

右訴訟代理人弁護士 木島昇一郎

主文

一  債権者と債務者との間の当庁平成元年(ヨ)第五九八号営業表示等使用禁止仮処分申請事件について、当裁判所が平成元年一一月九日にした別紙仮処分決定の主文第一項及び第四項のうち、福岡市中央区〈住所略〉の営業所(駐車場入口を含む。)において、「西日本ディズニー株式会社」の商号の使用禁止を命じた部分並びに「西日本ディズニー株式会社」及び「西日本ディズニー」の表示の除去を命じた部分を取り消す。

二  本件申請のうち、右取消にかかる部分の申請を却下する。

三  その余の前記仮処分決定を認可する。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

五  訴訟費用は債務者の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  債権者

1  主文第一項記載の仮処分決定(以下「本件仮処分決定」という。)を認可する。

2  訴訟費用は債務者の負担とする。

二  債務者

1  本件仮処分決定を取り消す。

2  本件仮処分申請を却下する。

3  訴訟費用は債権者の負担とする。

4  1につき仮執行宣言

第二当事者の主張

一  申請の理由

1  債権者の営業と「DISNEY」、「ディズニー」の周知性

(一) 債権者は、世界的に著名なキャラクターを生んだ動画、劇映画、記録映画及びテレビ映画の製作、配給並びにこれら映画の著作権及びキャラクターの商品化事業並びに「DISNEYLAND」(ディズニーランド)として世界的に知られる大遊園地の経営を行うアメリカ合衆国カリフォルニア州の法人である。

(二) 債権者はその名が示すとおり、「WALT DISNEY(ウォルトディズニー)」の著作物に関する営業を中心とする会社であり、同人はミッキーマウス(一九二八年)、白雪姫(一九三七年)、バンビ(一九四二年)、ピーターパン(一九五三年)、わんわん物語(一九五五年)、眠れる森の美女(一九五九年)、一〇一匹わんちゃん大行進(一九六一年)、くまのプーさん(一九六六年)などわが国にも極めてよく知られている各種動物画芸術を完成させ、劇映画においてもメリーポピンズ(一九六四年)、砂漠は生きている(一九五三年)、滅びゆく大草原(一九五四年)などの世界的に有名な作品を完成させた者である。これら種々の映画の著名性に伴い、「WALT DISNEY」、「ウォルトディズニー」は「WALT DISNEY」の姓名だけではなく、単に「DISNEY」、「ディズニー」と略称されて、日本を含む世界各国において親しまれていることは周知の事実である。

(三) 右の映画に登場する様々なキャラクターは、ディズニー・キャラクターと一般に呼ばれているが、債権者はその著名性を背景に、世界に先駆けて商品化事業を創始し、世界各国の関係業者に右「DISNEY」、「ディズニー」の名称やキャラクターの使用を許諾し、管理してきた。わが国においても事業の隆盛化に伴い昭和三四年に東京の新橋に一〇〇パーセント子会社のウォルトディズニーエンタープライズ株式会社を設立し、同社に対して各種ディズニーキャラクターの使用権を、再使用許諾権と共に許諾し、同社は昭和六二年当時に、既に、玩具、日用品、衣料品、文房具、食品、育児用品、スポーツ用品、寝具、乗り物、時計、趣味雑貨等の商品や銀行業、レストラン業のサービス業につき、八〇社を超える会社に再使用を許諾し、その中には株式会社三菱銀行、月星化成株式会社、キッコーマン株式会社、第一生命保険相互会社等の各分野の一流企業が含まれている。

(四) 債権者は、昭和三〇年七月にアメリカ合衆国マナハイム市に 「DISNEYLAND」(ディズニーランド)を建設し、次いで昭和四六年には第二のディズニーランドというべき「WALT DISNEY WORLD」(ウォルトディズニーワールド)を、さらに昭和五八年には「TOKYO DISNEYLAND」(東京ディズニーランド)を千葉県浦安市に建設し(以下これらを総称して「ディズニーランド」という。)、一〇〇パーセント子会社のウォルトディズニーアトラクションズ株式会社を通じて経営の管理に当たらせ、今日に至っている。

ディズニーランドは、「夢と冒険と魔法の世界」と一般にいわれているが、ディズニーはこの世界を子供のみではなく大人にも楽しまれるものとして計画し、ディズニーランドを従来の遊園地の概念から大きく離れた家族、夫婦、親子などを単位として全世代の人々が共に笑い、楽しみ、夢を見、遊ぶことのできる場として親しまれている。そして、「東京ディズニーランド」にはわが国の各地方からのみではなく、東南アジアの諸国からも観客を迎えるほど広く知られるに至っている。

(五) 以上のとおり、「DISNEY」、「ディズニー」の名称は、債権者の営業表示として、債務者の営業開始のはるか以前から、わが国において広く認識されていることは明らかである。

2  債務者の営業と営業表示「DISNEY」及び「DESNEY」

債務者は、昭和六一年一〇月二四日福岡市南区〈住所略〉に「西日本ディズニー株式会社」の商号をもって、遊技場の経営等を目的として設立された法人であり、昭和六二年一〇月に肩書地にパチンコ店を開業し、「DISNEY」の営業表示(別紙目録(一))を使用した。また、債務者は右店舗の営業が成功したことから、平成元年一〇月に福岡市中央区〈住所略〉に日本最大のパチンコ店を開業した。この二号店は「DESNEY」(別紙目録(二))という営業表示を使用し、一二〇〇坪という広大な敷地を有し、一二〇〇台のパチンコ台を設置するほか、ディスクジョッキーを設けるなど、エンターテイメントの要素を盛り込み、パチンコホール全体が大宇宙をイメージした劇場とすることが宣伝されている。

債務者の右各店舗等の営業表示の使用状況は別紙仮処分決定の主文第二ないし第五項に記載されているとおりであり、そのほか、名刺に「西日本ディズニー株式会社」を表示するなどして、当該商号を営業活動に使用している。

3  誤認混同のおそれと不正競争防止法に基づく差止請求権

(一) 債権者の営業表示「DISNEY」は、子供にも大人にも夢や楽しみを与える映画や遊園地に係る債権者の営業表示として著名であるところ、債務者の営業も、パチンコを主体とした娯楽性に富んだ営業であり、日本最大のものを目指しているところからみて、営業の性質において債権者の営業と共通性を有する。

したがって、債務者がその営業に「DISNEY」、あるいは「DESNEY」の営業表示を使用し、また、「西日本ディズニー株式会社」の商号を使用するならば、一般人は債権者が債務者の営業に何らかの形で関与しているか、あるいは、債務者が債権者から「ディズニー」、「DISNEY」の名称の使用許諾を得た一員であるかのように誤認混同するおそれがある。

(二) 債務者の商号「西日本ディズニー株式会社」のうち「株式会社」は単に会社の種類を表示するに過ぎず、「西日本」は地域を示すに過ぎないから、名称の要部は疑いなく「ディズニー」にある。

(三) また、「DESNEY」は、債権者の商号とは全く同一ではないが、これを文字どおり「デズニー」と呼称しても冒頭の「DE」と「DI」は子音を共通にし、母音も弱い音であり、「ズニー」を共通にするから全体として呼称上類似する表示である。

そして、債権者の「ディズニー」は世界的にも著名な名称でありそれを聞く者の心理に訴える類似範囲は広いから、「デズニー」は特別の注意をもってしなければ債権者の「ディズニー」と呼称上混同されるとみるのが経験則上自然であるし、「DISNEY」自体カタカナ表記では「デズニー」と記載されることも多い。さらに、外観上も「DISNEY」と「DESNEY」は「D」と「S」に挟まれた一文字の違いであるから極めて類似し、一般人はローマ字表示の一つ一つの綴りを正確には記憶していないから、時と場所を異にして見た場合、両者が外観上も類似する表示とみるのが合理的である。

4  被保全権利

以上のとおり、債権者は不正競争予防法一条一項二号により、債務者の営業表示である「DISNEY」「DESNEY」「西日本ディズニー株式会社」等、別紙仮処分決定主文記載の各営業表示の使用差止を請求する権利を有する。

5  保全の必要性

債権者は、百パーセント子会社である前記ウォルトディズニーエンタープライズ株式会社及びウォルトディズニーアトラクションズ株式会社を通じ、「DISNEY」、「ディズニー」、ディズニーキャラクター、「DISNEY LAND」、「ディズニーランド」等の財産的価値のある表示が他人に無断で不正使用されないように、専門の調査員を置いて常に監視し、違法を発見したときは直ちに必要な措置を執り、これら商品表示や営業表示の保護と管理に多大の費用と時間を費やしてきた。債権者の管理、支配できないところで、債権者の「DISNEY」等の名称が債務者により債務者の営業に大々的に使用されるならば、債権者が永年築き上げてきた名声、信用が害され、その債権者の損害は多大で回復できないものとなる。

6  結語

よって、本件決定は正当であるから、その認可を求める。

二  申請の理由に対する認否及び反論

1  申請の理由1の各事実はいずれも知らない。

2  申請の理由2の各事実はいずれも認める。

3  申請の理由3、4はいずれも争う。

4  申請の理由5のうち事実関係は知らず、その主張は争う。債務者の営業表示が存続することにより債権者が損害を被ることはあり得ない。

5  債権者の営業表示と債務者の営業表示は類似していない。

(一) 債権者の商号は「ザウォルトディズニーカンパニー」であり、債権者が自己を表示する場合に、「DISNEY」、「ディズニー」と表示することはなく、「ウォルトディズニー」と表示している。

これに対し、債務者は九州地区において独自のコンセプトを明確にした上で、遊技場の近代化、合理化を図りながら地域の経済的活性化に寄与すべく新聞等のマス・メディアを用いて自社の独自のイメージ、地域性を強くアピールしてきた。したがって、債務者にとって「西日本」と「ディズニー」は一体となって切り離せない表示であり、いずれを付加部分、いずれを要部として区別し得ないものであり、債務者の商号は債権者のそれと類似していない。

(二) また、債務者の二号店の営業表示は「DESNEY」であり、日本語では「でぃずにー」と表示している。さらに、債務者は右表示に近接して債務者自身のロゴマーク「EEE」を表示しているが、それは債権者の用いている営業表示とは全く異なるものであるとともに、債権者のキャラクター商品を併せて掲記するようなことは一切行っていない。したがって、これら債務者の営業表示を一体として考察すれば、債務者の用いている右表示は日本語による表示とあいまって、仮に債権者が「ディズニー」の表示を単独で使用しているとしても、債権者の表示と類似性を有しているものとは認識されない。

6  債権者の営業表示と債務者の営業表示が誤認混同されるおそれはない。

(一) 債務者は、その業務内容を九州地区における遊技場経営の健全化、近代化に絞り、独自の企業コンセプトを用いて、多額の宣伝費を費やして債務者の紹介、広報に努めてきた。すなわち、債務者はパチンコ業の持つ一種独特なイメージを払拭し独自の健全なイメージをPRするために、「いい気分」、「いい関係」、「いい環境」の三つの「いい」を表わす「トリプルE」を基本的なスローガンとして地域に密着した独自の経営方針を貫くことを新聞広告などの手段で広告し、マスコミによる報道も債務者の日本的牧歌的企業イメージ、独自の企業展開、企業姿勢を紹介するもので、債権者の業務と全く異なる事業主体にかる事業であることを明確にしている。

(二) 債権者の営業は、債権者の開発したキャラクター商品を機軸に置いて遊園地の営業と、キャラクター商品の販売ないしその映画の上映がその内容である。

債務者の事業は、あくまでパチンコ業であり、きわめて日本的な文化的背景を持つレジャー産業であって、その営業地域も福岡市内に限定されている。債権者の事業とは全く競合しておらず、このような場合、債務者が債権者の顧客、市場を蚕食することは全くありえないし、先行業者の名声を利用するいわゆるフリーライダーとしての不当な利益の掴取もなく、その反射的効果として、債権者の営業上の信用の棄損も考えられない。そして、現に債権者の営業活動と債務者のそれを混同したような問い合わせを受けた例も全く存しない。

(三) 一般に不正競争防止法が「混同のおそれ」を要件にしているのは競業関係にあることを前提にしており、競業というためには営業の内容に関連性、類似性が認められなければならない。

判例の中には一見すると異業種で差止を認めたような例もあるが、それは周知表示とのつながりを積極的に利用した場合であり、債権者との関係でいえば債権者のキャラクターを積極的に利用した場合にほかならない。すなわち、債権者の営業上の利益が侵されるのはまさにディズニーキャラクターの使用許諾を得たような行為をした場合であって、その場合には広義の混同が認められるが、キャラクターをも使用しない以上は債権者との何らかの関連性があるとは一般的には想起されない。そして、債務者はディズニーのイメージキャラクターを使用したことは全くない。

営業の内容、目的等からみて両者間に競業の実態が見られないときには、広義の混同が問題となるだけであって、このような広義の混同を認定する場合には、仮処分手続であっても慎重であるべきで、債権者の具体的営業の実態、当該地域における債務者の営業活動の内容、商号及び標章の使用による総合的な営業主体について当該地域における通常人の具体的判断を考察したうえで、債務者側の営業行為が債権者の信用をいかに低下させているかが具体的に立証されてはじめて混同のおそれが判断されなければならず、本件ではその立証はない。

(四) 債権者の主張は、要するに自社の名称の希釈化のおそれに尽きると思われるが、営業の出所について広義の混同も生じない場合に、希釈化のみを根拠に不正競争防止法上の差止請求を認めることはできない。

7  本件申請には保全の必要性が存しない。

(一) 債権者は巨大な資本のもとにディズニーランドを経営し、債務者の営業の継続によってなんらの損害も被っていない。また、営業の種類を異にしているのであるから少なくとも断行の仮処分によらなければならないような必要性は全く認められない。

(二) 債権者は、その損害として名声の希釈化を主張するかのようであるが、債務者は、健全かつ合理的なパチンコ産業の育成と地域の活性化に多額の投資を行っているもので、地域の行政機関、地域住民から好意的に支援を受け、その発展が望まれるような企業内容を誇っており、債権者の名声を希釈化するおそれは存しない。

(三) 債権者は、一号店の開店以来今日まで何らの警告もしなかったが、その間債務者は善意で自己の企業の広告宣伝に努め多額の投資をしている。新聞にしても一回の広告費は三三〇万円であり、二号店のネオンには四三〇〇万円の施工費用をかけている。また、債務者の営業は、遊技場の面積が日本一であるなど独自の営業上の名声が確立しており、本案の確定を待たずに一方的に名称の変更をなすことは信用の大きな失墜につながり、債務者に死活問題となるほどの致命的な損害を与えることは必至であり、このような点を勘案すれば本件において断行の仮処分の必要性は否定されるべきである。

第三疎明関係〈省略〉

理由

一  本件仮処分の内容

本件仮処分決定の主文は別紙仮処分決定主文のとおりである。

二  債権者の営業表示と周知性

以下の事実は概ね公知の事実であって、これに〈証拠〉を総合すると、その疎明があるものと認められる。

1  債権者は、世界的に著名なキャラクターを生んだ動画、劇映画、記録映画及びテレビ映画の製作、配給並びにこれら映画の著作権及びキャラクターの商品化事業並びに「DISNEYLAND」(ディズニーランド)として世界的に知られる大遊園地の経営を行うアメリカ合衆国カリフォルニア州の法人である。

2  債権者は、「WALT DISNEY(ウォルトディズニー)」の著作物に関する営業を中心とする会社であるところ、同人は「ミッキーマウス」、「白雪姫」、「バンビ」、「ピーターパン」、「わんわん物語」、「眠れる森の美女」、「一〇一匹わんちゃん大行進」、「くまのプーさん」などわが国にもその物語やキャラクターが広く知られている各種の動物画を完成させ、劇映画においても「メリーポピンズ」、「砂漠は生きている」などの著名な作品を完成させた者であり、これら種々の映画の著名性に伴い、「WALT DISNEY」、「ウォルトディズニー」は「WALT DISNEY」の姓名だけではなく、単に「DISNEY」、「ディズニー」と略称されて、わが国においてもかなり以前から子供を中心に広く親しまれており、「ディズニー」の名は老若男女を問わず、数十年前から世界的に周知となっている。

3  右の映画に登場する様々なキャラクターは、ディズニー・キャラクターと一般に呼ばれているが、債権者はその著名性を背景に積極的に商品化事業を行っており、様々な業者に右「DISNEY」、「ディズニー」の名称やキャラクターの使用を許諾し、管理してきた。わが国においても、玩具、日用品、衣料品、文房具、育児用品、スポーツ用品、時計、趣味雑貨等の商品や銀行業、保険業等のサービス業などの分野で、著名な企業を含む多数の企業が使用許諾を受けて、ディズニーの名称及びミッキーマウスなどのディズニー・キャラクターを自己の営業あるいは商品に使用している。

4  債権者は、大規模な遊園地としてアメリカ合衆国ロサンゼルス郊外に「DISNEYLAND」(ディズニーランド)を建設し、次いでフロリダに第二のディズニーランドというべき「WALT DISNEY WORLD」(ウォルトディズニーワールド)を、さらには近年「TOKYO DISNEYLAND」(東京ディズニーランド)を千葉県浦安市に建設し、今日に至っている。

ディズニーランドは、「夢と冒険と魔法の世界」をテーマにした世界的に有名な遊園地であり、子供のみではなく大人も楽しむことのできるものとして作られており、各地のディズニーランドは観光の名所の一つとして毎年大勢の入場者があり、家族連れ、夫婦、親子などの比較的若い世代の人々に広く親しまれている。

以上のとおりであり、右事実によれば、「ディズニー」、「DISNEY」という呼称は、ディズニー・キャラクターのアニメーションや遊園地など主として子供に夢を与える健全な娯楽産業の営業表示としてのイメージが定着し、債権者の有する営業表示として世界的にも広く知られ、わが国においても債務者の設立された昭和六一年より相当前から周知性の極めて高い営業表示であるということができる。

三  債務者の営業表示と誤認混同のおそれ

1  債務者は、昭和六一年一〇月二四日福岡市南区〈住所略〉に「西日本ディズニー株式会社」の商号をもって、遊技場の経営等を目的として設立された法人であり、昭和六二年一〇月に肩書地にパチンコ店一号店を開業し、「DISNEY」の営業表示(別紙目録(一))を使用したこと、また、平成元年一〇月に福岡市中央区〈住所略〉に台数で日本最大といわれる大型パチンコ店を開業し、この二号店は「DESNEY」(別紙目録(二))という営業表示を使用し、一二〇〇坪という広大な敷地を有し、一二〇〇台のパチンコ台を設置するほか、ディスクジョッキーを設けるなど、エンターテイメントの要素を盛り込んだ現代的な遊技場であることはいずれも当事者間に争いがない。

2  債務者が、パチンコ店の営業主体を示すものとして使用している債務者の商号「西日本ディズニー株式会社」のうち「西日本」は、単に地域を示すに過ぎず、「株式会社」は会社の種類を示すに過ぎないから、債権者の営業表示「ディズニー」と債務者の商号は極めて類似しているものということができ、単純に商号のみを比較すれば、債務者は債権者の子会社あるいは関連会社とみられるのが通常である。また、債務者は一号店では「DISNEY」という営業表示を使用し、これを店舗の正面にネオンで表示するなどして使用しているが、この営業表示は債権者の営業表示とまったく綴りが同一である。

次に、二号店では債務者は「DESNEY」という営業表示を用い、これを店舗正面のネオン等で表示するなどして使用しており、これは綴りにおいて債権者の営業表示と全く同一とはいえないが、ひらがなでは「でぃずにー」(別紙(三))と表示しており、これは債権者の営業表示をひらがなで表示したに過ぎず、また、一般人はローマ字表示の一つ一つの綴りを正確には記憶していないから、時と場所を異にして見た場合、両者は外観上も類似する表示とみるべきであるうえ、「DESNEY」を「デズニー」と呼称しても冒頭の母音が異なるがそれもやや似た音であり、他は全く同一で全体として極めて類似しており、年輩者であれば「DISNEY」を「デズニー」と発音することも珍しくなく、発音上もこれを「DISNEY」と識別することは容易ではない。しかも、〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、そもそも、債務者は二号店開店の直前に、債権者の担当者から営業表示使用の中止の申し入れを受け、急遽「DESNEY」という営業表示を用いたものであることが窺われ、債務者の商号、一号店の営業表示に照らすと、右「DESNEY」の営業表示は、債権者の代理人の抗議を受けたため、「DISNEY」とは異なる表示にして抗議を回避しながらこれに類似する表示として債務者が選択したものと推認されるのであって、選択の経過からみても類似性を否定することは到底できないというべきである。

また、債務者は〈証拠〉によれば二号店の宣伝カーに「でぃずにー」というマークと共に「WEST JAPAN DISNEY CO’.LTD.」という文字を含む鳥をデザインしたシンボルマークを付しているが、これも「WEST JAPAN」という地域名以外は、債権者の営業表示に会社であることの表示を付加したものに過ぎないので、シンボルマークの一部を構成するものであるが、「でぃずにー」のマークと一体のものとして、債権者の営業表示に類似する表示であると認められる。

3  次に誤認混同のおそれについて判断するに、なるほど、債務者の主張のとおり、現在のところは専ら債務者の営業はパチンコ業であり(債務者代表者尋問の結果)、債権者の営業は前述したとおりディズニーキャラクターを利用したアニメーション等を使用する各種の事業や遊園地の経営等であって、両者は市場において直接的には競業関係には立たないと考えられる。しかしながら、不正競争防止法上の「混同」の要件としては競争関係にあることまでは要しないし、誤認混同のおそれをいう場合に、ある特定分野のみで著名で、その著名な営業表示を知る者がその分野に関係する限定された範囲の者である場合と、世界的に有名なブランドで各種の事業に進出している場合とでは自ずと誤認混同の範囲が異なるのであって、周知性が高く、その営業表示による事業が多角化していればいるほど、異業種間でも誤認混同のおそれは高くなるものと考えられる。そして、その場合の誤認混同のおそれがあるかどうかの判定基準も、一般人を広く顧客の対象とする業種では、冷静な良識ある経済人の認識・判断を基準にすべきではなく、それぞれの呼称、外観の類似性を重視して、一般人のいわば第一印象として同一のものあるいは関連性のあるものと感じられるか否かによるべきである。なぜならば、今日は、マスメディアの発達により営業表示を周知させる手段、機会が著しく増加かつ多用化し、感覚に訴えるような手法で企業イメージを売り込むというような広告戦略が多用されており、営業表示等は常に受け手側の冷静な判断の下に選別、解釈がほどこされてから情報として記憶に取り込まれていくわけではないから、無意識的に提供される視覚あるいは聴覚に訴える情報が、無批判的に一般人の記憶に定着していく可能性が高く、不正確な認識、記憶によって無意識的に誤認混同がすすむ危険性があるからである。

そこで検討するに、確かに債権者の営業は、一般的には、いわゆるディズニーキャラクターのアニメーション映画等の視覚的なメディアを用いた各種の事業や遊園地の経営等においてその著名さが認められ、特に主として子供を対象にした健全なレジャー産業(ディズニーランドのみは大人も楽しめるという要素も併せ持つ。)というイメージが定着しているので、良識ある市民が冷静に判断すれば、債務者の営業表示を見聞きしても、債権者あるいはその関連会社がわが国においてパチンコ業に進出したものと誤解することはほとんどないと考えられる。しかし、債権者の営業表示はキャラクターを生み出したアメリカ人の氏名に由来するもので、わが国においては債権者の営業表示と無関係に偶然に債権者のそれと類似する営業表示を選択するという可能性は皆無に等しく、債権者の営業表示は世界的にも周知性が極めて高く強力な出所表示機能を有するものであるから、これと類似する営業表示が使用された場合には、業種が債権者のそれと著しく掛け離れた特殊なものである場合を除き、第一印象としては債権者となんらかの提携関係を有するものとの誤解を生みかねないと考えられる。そのうえ、一般に世界的に周知性の高いブランドを有する企業は事業の範囲をその企業が周知性を獲得した分野に限定せずに、周知表示を利用して事業を拡張し経営を多角化していく傾向が顕著であって、本件の場合にも双方ともレジャー産業というカテゴリーに含まれ、全く異種の営業であるということもできず(なお、債務者も総合レジャー産業を標榜している。(〈証拠〉))、しかも債務者の営業が広く一般人を対象とするものであるから、一般世人が債務者の店舗の大きなネオン(〈証拠〉)を見たり、「ディズニー」という呼称を反復して耳にすれば、債権者が債務者の営業に関し出資、あるいはノウハウの提供などなんらかの形で関与しているものと誤認混同とするおそれがないとはいえないと判断される。そして、そのようなおそれは、債務者の広告宣伝活動が盛んになり、債務者が周知性を獲得していけばいくほど強くなるものと考えられる。

また、債務者のパチンコ店における表示にしても、店名はアルファベットを用いて、店舗の外観は西洋の城を思わせる造りで外壁にネオンを配しており、また、店員にはホテル従業員のような制服を着用させ、ローラースケートを履いた女性店員を常時配置するなど、債務者は従来のパチンコ店と異なるよりスマートな西洋的雰囲気の店舗造りをし、さらには、「WEST JAPAN DISNEY CO’.LTD.」というロゴと鳥を組合わせたマークを車体につけた宣伝カーを走らせるなどしており、これを総対的にみると、従来のパチンコ店のイメージから脱却した近代的なレジャー産業を目指していることが窺われ、債権者のアメリカ的レジャー産業としてのイメージと重なり合う部分があるので、これらの要素も誤認混同のおそれを強めるものと言える。

4  債務者は、債務者が、福岡地区に限定して営業し、遊技場の近代化を図り独自の企業コンセプトを用いて多額の宣伝費を費やして債務者の紹介に努め、債務者が債権者と無関係な事業主体にかかる事業を行っていることを周知する措置を講じており、債権者のキャラクターを利用したこともなく、さらにトリプルEという独自のロゴマークを使用して広報活動を行っているから誤認混同のおそれがない旨主張する。

なるほど、債務者がことさらに自己の営業を債権者と関係づけるような広告・宣伝活動をした形跡はなく、「E」の字を三つ組合わせたロゴマークを用いて広告・宣伝活動を行っていることの疎明はあるが(債務者代表者、〈証拠〉)、積極的に債権者と無関係であることを強調した広告をしているわけでもなく、債務者の営業を紹介する報道等で営業主体が債権者と無関係であることが常に明示されることも期待し難い。したがって、債務者の広報活動も店名から連想される債権者との関連性を払拭し得るものとはいえない。また、前述の店舗の外壁の営業表示(店名)の近くにもトリプルEのロゴマークが付けられているが、入口正面からは店名である「DESNEY」、「DISNEY」の文字が強く目を引き、トリプルEのマークが同時に目に入るわけではないから、債務者が誤認混同を防止するに十分な付加表示を行っているとも認められない(〈証拠〉)。さらに、債権者の営業表示は数々のディズニーキャラクターとの結びつきが強いことは否めないが、それが欠落していれば営業主体を表示する周知表示としての機能を有しないとまではいえないから(遊園地の場合を考えれば自明である。)、キャラクターの使用の事実がないことの一事で誤認混同のおそれを否定できるものでもない。なお、債務者の営業区域が福岡市に限定されていても、その地区でも債権者の営業表示の周知性が認められるのであるから、それが誤認混同のおそれを認めるになんら妨げとなるものでもないことも明らかである。

さらに付言すれば、わが国においては、周知性の極めて高く、わが国の地名、人名とも関係のない債権者の営業表示を、それの持つ名声、ブランドイメージを利用する意思なくして偶然に自己の営業表示に用いることは事実上ほとんど考えられず、債務者にしても、商号、店名の選択に際しては債権者の有するレジャー産業での著名なブランドとしての顧客吸引力を同じレジャー産業のパチンコ業に利用しようとする意思があったものと推認せざるを得ない。その意味で、もともと、債務者の営業は債権者の営業表示を利用し得るほど債権者の営業と一定の親近性を有しているということができるのであって、この点から見ても広義の混同の可能性は否定しがたいものといわざるを得ない。

したがって、債務者の使用している仮処分決定記載の各営業表示はいずれも債務者の使用以前からわが国で周知となっていた債権者の営業表示との誤認混同を生じさせるおそれ(債権者の営業となんらかの関連性を有するものと誤信させるおそれ)のあるものとして不正競争防止法一条一項二号による差止めの対象になるものと認められる。

四  保全の必要性等について

1  債務者の使用している営業表示のうちパチンコ店の各営業表示は、右にみたとおり債権者の営業表示との誤認混同を招くおそれがあり、この種の営業表示については、それが債務者の営業活動、宣伝活動などを通じて次第に著名になるのに比例して、誤認混同のおそれも増幅し、債権者が永年にわたって築き上げてきた債権者の営業表示の有するブランドイメージが時の経過と共に害されていくことが予想され、債権者の表示の有する識別機能が希釈化される危険も存し、本案の確定を待っては回復しがたい損害を債権者に被らせる結果となるおそれがあり、その間の侵害行為を放置しておくのは不正競争防止法の趣旨からみても妥当でないので、本案確定前に使用の差止めをする必要性が認められる。そして、このような断行の仮処分も、その審理方法として、債務者を審尋して意見を述べる機会を十分与えた上で発令するのであれば許容されるところであり、本件記録上、本件決定の発令手続になんら違法な点は認められない。

2  債務者は、現実には特に債権者が被害を被っていないこと、債務者はこれまで特にクレームを付けられることなく営業を継続してきており、多大な投資をした後に使用を差止められると金銭的にも多大な損害を被るばかりでなく、債務者が多額の投資をして築き上げてきた顧客、地域の信用をも失うという大きな損害を被ることが必至であるから、断行の必要性を認めるべきではないと主張する。

しかし、債権者の被る損害は直ちに売上等の営業成績に反映する性質のものではないから、現実にも債務者の営業表示の使用によって債権者がなんらの損害を被っていないとは言えず、誤認混同のおそれがある以上は、通常は営業上の利益を害されるおそれがあるものと認められる(最判昭和五六年一〇月一三日参照)。また、確かに現状では債権者と債務者は厳密な意味では競業関係にはないが、債務者の営業であるパチンコ業は、風俗営業取締法による規制を受ける風俗営業の一種であり、パチンコは射幸性の高い遊技であって、一八歳未満の者の入場が禁止される等の規制がなされており、このような業種の営業表示と債権者の営業表示との混同が生じた場合には、債権者の有する、主に子供を対象とした「夢と冒険」というような健全なレジャー産業としてのイメージが大きく損なわれるのは自明の理である。また、債務者の被る損害についても、債権者の営業表示は世界的にも著名な表示であるから、それをなんらの許諾なくして使用する以上は、差止めを命じられる危険は当初から当然覚悟すべき筋合である。債務者が債権者の名声と無関係に債権者の営業表示を含む商号や営業表示を採用した形跡は債務者の提出した疎明資料からも全く窺えず、むしろ、債務者は、債権者の許諾を得ずに債権者の築き上げたブランドイメージを無料で利用する意図の下にこれを自己の営業表示として選択した結果と見ざるを得ないから、その結果生ずる損害は当然に受忍すべきであって、債権者の利益を犠牲にしてまで仮処分手続であるからという理由で特に債務者の前述のような利益を保護しなければならないとするのは妥当ではない。

3  しかしながら、本件決定のうち、債務者にその商号である「西日本ディズニー株式会社」の使用を禁止した部分及び債務者の営業所(〈住所略〉。隣接駐車場入口も含む。)において商号を記載した看板等の表示の除去を命じた部分については、断行の必要性があるとは認め難い。

すなわち、債権者の営業表示との誤認混同のおそれを防止するためには、パチンコ店の営業についてその営業表示の使用禁止と表示撤去を認めることでほぼ達成することができ、パチンコ店の営業表示が変更されれば、これと別の建物の債務者会社の主として事務を行う営業所に債務者の商号を示す表示が残存していても、パチンコをする一般の顧客にはその表示を目に触れる機会はほとんどなく、また、債務者の商号とパチンコ店との関連性も希薄になるから一般の顧客に誤認混同されるおそれは薄くなり、せいぜい営業所での取引を行う景品の仕入業者等に誤認混同されるおそれが残る程度であるが、債務者の表示にそのような業者の顧客吸引力があるとも考えがたく、その中には金融機関等債務者の設立の経緯等を知って取引きする者も相当含まれるので、その表示を直ちに除去し使用を禁止することによって得られる債権者の利益はさほど大きなものとはいえず、本案判決の確定をまたずにこれと同じ権利の満足的状態を作り出す緊急の必要性は薄いものと判断せざるを得ない。

一方、債務者に会社の事務的な活動を行う営業所においても自己の商号の表示を使用させないとすれば、商号自体の使用を禁止されるに等しい効果を与えることになり、景品の仕入先、機械の購入先等の取引先業者にさえも営業所の所在がわかりにくくなり、また物品の配達等にも支障がでるおそれがあり、債務者の営業活動上重大な支障をきたすことが予想され、事実上本案の確定を待たずに商号の変更を強制するに等しい結果となる。

したがって、仮処分はそもそも権利関係を確定し実質的な権利の実現を目的とするものではなく、訴訟手続、強制執行手続を通じて権利が確定、実現するに至るまでの暫定的措置を定めるものであるから、右にみたように強い緊急性、必要性が認められない場合には、権利の終局的実現をさせるに等しい断行の仮処分の申請は保全の必要性を欠くものというべきであり、本件申請のうち〈住所略〉の債務者営業所における営業表示の使用禁止を求める部分は、被保全権利については十分疎明があるものの断行の必要性を欠くものとして却下すべきである。

五  結論

以上によれば、本件決定の主文第一項及び第四項のうち福岡市中央区〈住所略〉の営業所(駐車場入口を含む。)において「西日本ディズニー株式会社」の商号の使用禁止を命じた部分並びに「西日本ディズニー株式会社」及び「西日本ディズニー」の表示の除去を命じた部分は、断行の必要性の疎明が十分でないからこれを取り消してその部分にかかる本件申請を却下し、本件決定のその余の部分は適法であるからこれを認可することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但し書を、取消部分の仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大島隆明)

別紙 仮処分決定主文目録

一 債務者は、別紙目録記載の(一)ないし(三)の営業表示、並びに「西日本ディズニー株式会社」、「ディズニー」及び「WEST JAPAN DISNEY CO., LTD.」の商号ないし営業表示を、福岡市南区〈住所略〉及び同市中央区〈住所略〉並びに〈住所略〉におけるそのパチンコ遊技場の営業活動、営業施設及び営業所に使用してはならない。

二 債務者は、平成元年一二月一五日までに、福岡市南区〈住所略〉におけるパチンコ遊技場の営業施設から、別紙目録(一)の営業表示をすべて除去しなければならない。

三 債務者は、平成元年一二月一五日までに、福岡市中央区〈住所略〉におけるパチンコ遊技場の営業施設、その屋上及び営業施設に取り付けられた横断幕並びに、営業施設の斜め前方のロータリー上の立看板から別紙目録(二)及び(三)の営業表示をそれぞれすべて除去しなければならない。

四 債務者は、平成元年一二月一五日までに、福岡市中央区〈住所略〉にある営業所の建物、ドア並びに隣接する駐車場入口にある立看板から「西日本ディズニー株式会社」及び「西日本ディズニー」の各表示を、福岡市中央区〈住所略〉におけるパチンコ遊技場の営業施設の斜め前方にある電柱看板から「ディズニー」の表示をそれぞれすべて除去しなければならない。

五 債務者は、平成元年一二月一五日までに、福岡市中央区〈住所略〉におけるパチンコ遊技場の営業活動に係る宣伝カーから、別紙目録(三)の営業表示及び「WEST JAPAN DISNEY CO., LTD.」の商号ないし営業表示を除去し、かつ、同遊技場の窓ガラスに貼付し、別紙目録(二)及び(三)並びに「西日本ディズニー株式会社」及び「ディズニー清川支店」の商号ないし営業表示等を記載した広告紙をすべて除去しなければならない。

六 債務者が、前二ないし五項までの行為を前二ないし五項に定める期限までに行わなかったときは、第三者は、債権者の申立により債務者の費用で、前二ないし五項の対象物をすべて取り除くことができる。

別紙目録(一)~(三)〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例